指揮者・村中大祐には、子どもの頃から忘れられない風景があります。横浜と鎌倉の境を通る「かまくらみち」。そこには木々が鬱蒼と茂る森があり、子どもたちはカブトムシやクワガタを追いかけ、野鳥を追い、時にはスズメバチに追い回されながら、自然の中で毎日を過ごしていました。
しかし、宅地開発の波が押し寄せ、その森は次々と姿を消していきました。動物たちの棲家も、子どもたちの遊び場も、記憶の風景も、ほとんどが様変わりしました。ただ一本、二百数十年のあいだその場所を守り続けてきた老木「スダジイ」だけが、道路建築計画の狭間でひっそりと佇んでいます。
かつてそこにあった森を、これからの子どもたちが見ることはもうできません。けれども、失われた森の記憶を、音楽と自然の力によって、世界中の人々の心に新しく植えていくことはできる。村中大祐が「自然と音楽」に込めてきた思いは、そこから始まっています。